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講演要旨


野上道男(東京都立大学理学部長・教授)
講演テーマ   地球温暖化と海

 人間が空気中に排出する二酸化炭酸ガスによって地球温暖化が起こり、このまま現在の状況が続くと21世紀半ば前に、気温が 2-3.5℃も上がると予想されている。そして氷河が溶けて海面が上昇するなど大変なことが起こるとされている。
 そこでまず最初に、長い地質時代を通じて気候はどのように変わってきたのか、またその変化の原因についてどの程度科学的に分かっているのかについて話したい。つぎに氷河時代のように大陸に大きな氷河が形成された時には、その体積分だけ海水が減り海面が下がっていたという話をしたい。海面の高さは決して一定ではなく、気候変化によって大きく変わってきたのである。
 それではいま進行している地球温暖化によって南極の氷が融け海面が上昇し、海岸平野は水浸しになるのだろうか。この因果関係をもう少し詳しく検討する。
 最後に、地球温暖化によって地球上にどんな影響が現れるのか、多方面にわたって検討したい。そして地球温暖化問題とは一体何であるのか根本的に考え直してみたい。


今井健三海上保安庁水路部
講演テーマ  電子海図の現状と将来

1.はじめに
 このところ、頻発するオイルタンカー事故を契機に海事関係者の間で電子海図への期待と関心が一段と高まっている。これは船上に搭載した電子海図表示システム (ECDIS)がデジタル海図情報とGPS測位情報やレーダ映像等の航海情報を結合し、荒天・濃霧・夜間時や狭水道などの劣悪な環境下でも自船位置と他船の動向を画面に常時、表示できること。危険水域に接近した際は事前に警報を発するなど、従来の紙海図では不可能な機能を備えていることが安全運航上最大の利点といえる。

2.電子海図の現状
 国際水路機関 (IHO)は1980年代半ばから電子海図基準の検討を開始し1990年、1991年に電子海図の基本設計概念及び詳細な作製仕様を確立した。これを受けて日本は1992年から電子海図の開発を開始し、1995年 3月世界に先駆けて第1号の電子海図、「東京湾至足摺岬」を刊行した。そして1997年 2月までに合計4枚のCD-ROMに収録した中・小縮尺電子海図を刊行し日本沿岸全域をカバーした。1998年 3月には大縮尺電子海図シリーズとして最初の「東京湾」を刊行し、以後CD-ROMによる定期的な更新情報の提供を開始しようとしている。電子海図データの整備は2001年中に全ての国内主要港湾の完成を目指している。

3.電子海図の将来
 電子海図は発展途上の海図であり、今後新たな機能がさらに拡張、付加されるであろう。新しい動きとして IHOは国際航路標識協会(IALA)からの提案である船舶航行支援のための VTS情報を ECDIS画面に表示する基準を検討している。さらに時間的に変化する気象・海象等の情報を ECDISの海図情報と関係付けて表示することも研究している。これからの船橋における航海情報の統合は ECDISをその中核として位置付けている。ベースとなる電子海図の高品質化と円滑な更新情報の提供が航海安全と運航効率の重要な鍵となろう。


碓井照子(奈良大学助教授・GIS学会関西支部事務局長)
講演テーマ  海域の地理情報システム(GIS)整備の重要性

 近年における海洋情報の電子化には目覚しいものがある。電子海図の作成、航海用電子参考図(ERC:Electronic Reference Chart)などは、GISによる海域情報の利活用において不可欠のものであろう。しかし、現在の海図は、その縮尺が多様であり、一元的な精度で海域情報の基盤データとするには、様々の改良が必要である。電子海図をはじめ5万分の1シリーズ ERCの作成などは、沿岸域の小型船舶の航海用だけでなく、今回のナホトカ号重油流出事故事の緊急対応にも利用可能であり、その利用価値は高い。
 GISで海域情報を効率的に処理するためには、様々な利用形態にあわせたデータの提供が必要になる。そこでは、従来の紙海図の作成という固定観念から抜け出さねばならない。例えば、昨年、国土地理院から刊行された数値地図2500(空間データ基盤)には、従来の紙地図にはなかった道路中心線や道路ネットワーク情報、さらに行政界や河川界をポリゴンとして閉じるための様々な仮想線が電子化されている。これは、GISで道路情報や行政情報をを管理・分析するために必要な仮想線であり、この事によって、数値地図2500は、日常時のみならず災害の緊急時においてさえ、リアルタイムに利用可能な利便性を備えたのである。紙地図の単なるデジタル化と電子地図は本質的に異質であるという認識が必要になる。
 同様の事は、海域情報のGISによる整備についても言えよう。この利便性は、海域情報のデータ取得法やデジタル化がGISのデータ構造やその空間機能と整合性を有しているところに実現されるのである。海域情報のデジタル化のベースには、陸地で必要とされている空間データ基盤と同種の海域情報のベースとなるフレームワークが必要であろう。現在の電子海図や ERCがそれらのベースになることが考えられる。
 また、GISでは位置参照の機能が重要であり、その位置参照系は、 GPSの発展に応じて世界共通の地球重心座標系を採用する国が増加している。海域情報のGIS整備にも、 この種のグローバルな位置参照系が必要とされよう。そして、海域情報の整備には、グローバルな位置参照系で整備された海域情報のフレームワークになる基盤が必要であり、このフレームワークは、陸域の空間データ基盤とも整合性を有さなければならない。このことにより、沿岸域のような海陸の接合域の情報管理も容易になるであろう。海域情報のフレームワークに多様な海域情報が負荷されれば、航海や海域研究、海域管理という海域情 報の利用形態が、海域ビジネス(沿岸域の養殖、海洋レジャー開発、海洋資源探査など)にも拡大される可能性があり、海域情報提供ビジネスというデータベース産業が発展することが考えられる。また、海域情報がリアルタイムに更新され、海域情報のクリアリングハウスなどからインターネットを通じて広く、一般に公開されれば、新たな海域情報利用形態も考案されるであろう。その可能性は計り知れない。
 海域におけるGIS整備が進展すると、一体、何が変化するのであろうか。従来の海域の利用や管理および研究に新たなステージを提供するような21世紀型の海域情報の整備と情報提供の在り方について講演してみたい。


道田 豊海上保安庁水路部
講演テーマ  沿岸海域環境保全情報の整備

   平成9年は、1月に日本海で発生したナホトカ号の海難・流出油事故、7月に東京湾で発生したダイヤモンドグレース号の事故など、社会的にも大きな話題となった油流出事故が頻発した年であった。このような事故の際、的確な防除措置を講じるためには、正確かつ最新の海域に関する情報が不可欠である。このことは従来から強く認識されており、国際的には「1990年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約(OPRC条約)」において、またこれを受けて閣議決定された「油汚染事件に対する準備及び対応のための国家的な緊急時計画」など国内でも、沿岸域の環境保全に関する情報の整備が求められている。 海上保安庁水路部では、平成9年度から「沿岸海域環境保全情報の整備」に着 手し、油汚染事故の対応に必要となる自然、社会、経済情報を収集し、地理情報システム(GIS)を応用した情報システムとして整備を行っている。この事業の開始と相前後して前述の事故が発生したことから、運輸技術審議会などの場で早急に情報整備を進める必要があると指摘され、その結果当初の計画を繰り上げて、平成10年度中に日本全国の沿岸域について情報のデータベース化とシステムの構築を行うこととなった。併せて体制も強化され、本庁水路部海洋情報課に「沿岸域海洋情報管理室」を設置し、各管区海上保安本部水路部に担当専門官1名を配置することが認められた。
 こうした情報を収集し、いわゆるリスクマップの形に整理することは、これまでにもいくつかの例があり、それぞれ所期の目的を達している。今回は、情報をデジタルで整備し、収集した情報の最新維持を容易にするとともに、GIS技術の特性を生かして、作成したデータベースから必要な情報を取捨選択して表示することを目指している。単なるデジタル地図ではなく、漂流予測情報など動的な情報を重ね合わせ表示することで、より的確な対策に資することが主眼である。
 収集すべき情報は、ベースマップとして電子海図、潮汐や海岸性状などの自然情報、港湾施設など社会情報、油防除関連施設など防災情報等、多岐にわたっており、関係機関等との協力のもとで効率的に収集することが求められる。運輸技術審議会などの場においても、関係機関の間で情報の共有化について十分な調整を行う必要があるとされており、今後所要の調整を図りながら情報整備を進める予定である。
 講演では、標記情報整備の考え方と現在構築中のシステムの概要について紹介し、関係各位のご意見を伺うこととしたい。

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