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第二回海洋情報シンポジウム講演要旨


海洋生物資源と海洋情報

松宮義晴(東京大学海洋研究所教授)

 本講演に副タイトルをつければ、’海洋生物資源にかかわる調査・情報・評価・管理’、’海洋生物の資源管理と海洋環境の情報・データとの接点’、’海洋環境のデータや情報が海の生物資源の動向予測や管理方策に果たす役割’などとなる。
 人間が漁業を通じて利用している有用な生物の集団を水産資源といい、大部分が海洋の生物資源である。漁業を続けても鉱物資源のように、やがて水中の魚がいなくなり、絶えてしまうようなことはない。海洋生物資源は森林資源に比べて短いサイクルで再生産することが大きな特徴である。この再生産の働きを活用して、人間が水産資源を利用していく最も良い獲り方があるはずである。国連海洋法条約の批准に伴い、日本でも1997年から 200カイリ経済水域内の主要な7つの漁業対象資源について、許容漁獲量(Total Allowable Catch,TAC)設定による資源管理が行われている。
 加入管理とは、生物資源が自律更新資源であることと、子供を生む内容(再生産情報)を重視し生活史サイクル全体を考慮して加入乱獲(次世代の加入を省みずに親魚をとりすぎること)の回避をめざす考え方である。生物資源の生活史の中で、人間が漁業を通じて調節できるのは漁業への加入後から寿命のプロセスである。卵から加入前までは自然の海洋環境要因に規定され、卵や稚魚の時期は人間が関与できない。卵や稚魚の生き残りの良し悪し、産卵親魚量と加入量の関係、資源に内在している密度効果という弾力性の情報に基づいて管理することの重要性が1990年代に入って世界的にも強調されてきた。加入管理には、加入尾数 Rに対する産卵親魚量 Sの割合(加入尾数あたり産卵親魚量、 SPRという、加入1個体が生涯に産卵する期待産卵数)という概念を親子の関係と組み合わせて漁業を規制する方法と、直接的に産卵資源量の確保をめざす方法があり、日本の TAC制度にもこの考え方が導入されている。
 資源量変動機構や変動要因の模索によって、産卵親魚量あたり加入尾数 RPS(卵から加入までの生き残り、再生産成功指数)を予測できれば、資源管理に大きく寄与する(RPS×SPR=1にするという意味)。目的関数を RPSとした、重回帰分析、最適変換法、ニューラルネットワークなどによる解析が有効である。 RPSの予測に関する研究は漁海況予測事業として、日本では古くから推進されてきた研究分野でもある。過去のデータからベイズ理論や時系列解析によって RPSを予測する研究も考えられる。幼稚仔の死亡に関する特性要因、データベース(歴史的資料解析)の重要性、環境の数量化(数量化の基本思想)、Generalized Linear Modelによる影響評価、最適変換法に基づく資源変動要因の解析、回遊環境履歴の解析と意義(PIXE、EPMA)などについてもふれたい。


生物資源の海洋環境と海洋データ

宮地邦明(水産庁遠洋水産研究所海洋・南大洋部長)

 海洋における生物資源となるとその大部分が水産資源となろう。ここでは生物資源=水産資源ということで話を進めさせていただく。水産資源といってもその対象となる生物の種類は多く、生息域も極めて広範に及び、生息環境は多様である。また、生物の成長段階によって生息環境を選ぶ。このような生物と環境の関係を解明しようとして、これまでにも多くの研究がなされてきた。その結果、漁業対象生物の行動やその資源量の変動に環境要素が大きく関与していることが多くの事例から明らかになってきた。しかし、水産業が求める漁場予測や資源量予測技術の確立には至っていない。
 環境の概念は幅が広く、本来なら対象生物を取り巻く外敵、餌等の生物的要素や水温、塩分、栄養塩等の物理・科学的要素も含まれる。学問的な視点からは、それらを網羅して漁場形成や資源量変動の機構解明に迫るのがあるべき姿ではあるが、産業からの要請に応えるためには幾つかの指標をもって予測の根拠とすることが現実的である。その意味で、情報が得やすい水温データは貴重であり、従来より漁場探索等で重要な役割を果たしてきた。遠洋水産研究所では、太平洋、インド洋に広く展開するマグロ漁船による広域観測網によるデータベースを構築し、水温データの収集・管理を行っている。そこで、まずこのデータベースについて紹介したい。また、資源の加入を通して資源変動に大きな影響を及ぼす卵稚仔の輸送問題への取り組みの事例として薩南海域のマイワシ産卵場における研究を紹介し、海洋データのあり方、利用の仕方について議論したい。


東海ブロック海域における生物資源と海洋環境情報

清水利厚(千葉県水産試験場浅海研究室長)

 生物と環境の関係は古くから重要視されている。水産生物に関わる環境には、大きく分けて資源量の変動に関わる側面と、漁場形成に関わる側面とがある。もちろん、この二つの側面は互いに独立であるのではなく、資源量の増大・減少に伴い、漁場の拡大・縮小や移動などがある。
 資源量の変動に関わる環境変動の自然的要因では、再生産の際の初期減耗に関することが重要である。水温が卵発生の速度を支配することや、海水流動が卵稚仔を輸送することなどの物理的な環境要因がある。ときには、自然環境の変化が親資源そのものに影響する。沿岸のごく浅海域に生息する生物の分布は、海流系を反映している。犬吠埼付近は生物地理区分の境界域となっているが、このような境界域付近では、経年的な海況変動によって、ある種の個体群の資源水準が大きく変化する。
漁場形成に関わる自然的環境では、魚群は一般に潮境付近に集群する傾向があるという北原の法則に示されるように、海水特性(水温、塩分、栄養塩など)が急変する、異なった海水特性をもつ水系同士の境界域である潮境、海洋前線の変動が重要である。
 そこでまずはじめに、おもに定着性の水産資源についていくつかの例をあげ、その資源変動や漁場形成など、生物的・資源的特性について述べる。
つぎに、これらの生物現象について、どのような海洋環境の要因が関係しているか、あるいはどのような仮説が示されているのかについて述べたい。
 最後に、日報として発行されている一都三県漁海況速報について紹介をしたい。

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