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講演要旨
日本海深層水に生じつつある異変
蒲生 俊敬
北海道大学大学院

   日本海の海洋環境は以下の二つの地理学的特徴と密接に関連している。 ひとつは,周囲の海域からの強い閉鎖性であり,いま一つは北部海域における冬季の寒冷な気候条件である。 この両者の相乗効果によって,日本海に独自の深層循環系がもたらされ,われわれはそれをグローバルな海洋大循環系のミニチュア版とも見なすことができる。 冬季の寒冷気候による表面海水の高密度化と沈み込みによって駆動される熱塩循環が日本海を活発に撹拌するので,日本海の深層・底層海水は,北太平洋の深層水よりもむしろ豊富に酸素ガスを含むことが知られている。 

   ところが,日本海底層水(水深約2500m以深の鉛直的に極めて均一な性質を持つ水塊)中の溶存酸素濃度が,1977〜1998年の21年間に,一方的に7〜8%減少していることが明らかになった。 酸素は海洋表面でのみ生産されるので,日本海の表層から底層への酸素の補給,すなわち海水の鉛直混合が衰退しつつあることを強く示唆するものである。 このことは,やはり海洋表層にしか供給源のないトリチウム濃度の経年データからも裏付けられている。 また,日本海底層水の溶存酸素濃度データは戦前の1930年頃まで遡ることが出来るが,当時の酸素濃度は1977年に比べて明らかに高い。 すなわち日本海底層水の酸素濃度の減少傾向は,最近70年にわたって続いてきたと推定される。

   底層水の性質の変遷が一時的なものではなく,このように長期にわたって継続していることは,日本海だけのローカルな現象というよりも,むしろグローバルな気候変動との関連を強く示唆している。 日本海北部沿岸域のウラジオストックをはじめ3都市では,20世紀に冬期の最低気温の平均値が3〜4℃増加している。 日本海底層まで沈降できる高密度水の形成は,冬期の日本海北部海域での表面水の冷却(表面水から大気への熱移動)に大きく依存していると考えられる.最近の地球温暖化とそれに伴う気候変動が,日本海の底層水形成の停滞傾向とどうリンクしているのか,観測とモデリングの両面から早急に解明する必要があろう。

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